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不動産業界におけるDXの推進は、業務効率化や顧客満足度の向上、新たなビジネスチャンスの創出に加えて、労働環境の改善による人手不足の解消など、業界が抱える課題解決の切り札としても期待されています。
現状、不動産業務の多くは手作業・対面などのアナログ運用が大半で、そのことが不動産業界の生産性向上を阻んでいます。
加えて、不動産会社の顧客である生活者においては、日常的にスマートフォンを活用して情報収集を行い、必要に応じて電話やチャットで情報を補完しつつ、決済や契約までの過程をすべてスマートフォンで完結することが一般化しています。
不動産サービスにおいても異業種と同様に、IT化による利便性向上のニーズが高まっている状況にあると言えるでしょう。
DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、ITを導入することで効率化を図り、生活の質を高める取り組みを指します。
DXの取り組みが広まる中、ビジネス領域においても自社のビジネスモデルにITを掛け合わせることで業績改善を目指す取り組みが採用されるようになりました。
AmazonやUber、NetflixなどがDXを実践し、企業規模を大きく拡大させたことはビジネスにおけるDXの好例と言えるでしょう。
不動産業界においては、業界特有のアナログな業務フローがDX推進の障害となっていました。
しかし、コロナ禍によって働き方のトレンド、生活者の意識が大きく変化し、不動産業界においてもその対応の切り札としてDXを推進する動きが徐々に広がってきています。
ここでは、コロナ禍を経た不動産業界において、DXを推進する理由について考えてみたいと思います。
ここ数年注目されてきた「働き方改革」がコロナ禍を経て加速したことで、不動産業界においても生産性向上がより強く意識されるようになりました。
独立行政法人経済産業研究所が発行した「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」(2015年調査)によると、日本の不動産業界の生産性は、アメリカの不動産業界に比べて28.4%、同じくドイツの24%程度とかなり低いことが指摘されています。
低位にある生産性を改善するための切り札として、DXが期待されています。というのも、ITは情報・データとの相性が良く、物件情報・顧客情報が集積する情報産業という側面も持つ不動産業界との相性も良いと考えられるからです。
先進諸外国に比べて生産性が低いことは、裏を返せば改善の余地が大きく、DXを推進することで旧来のアナログな商習慣からの脱却が期待されています。
コロナ禍によって生活者の住まい探しのトレンドも大きく変化したため、不動産業界もそのニーズへの対応が欠かせない状況にあります。
従来の不動産業務においては、店頭での接客、内見から契約に至るまで対面での対応が基本でしたが、コロナ禍において非対面・非接触が求められるようになりました。
ZOOMでの接客、VR内見、電子契約など、問い合わせから契約に至るまですべてオンラインで完結できるサービスが広がっており、コロナ前に比べて一気にDXが進んだ印象です。
いずれコロナ禍は終息するものと思われますが、生活者のニーズがコロナ以前に完全に戻るとは考えづらく、むしろ生活全般のDXが進むことで、不動産サービスにおけるIT化のニーズはさらに高まるものと考えられます。
DXの推進によるサービスの充実度によって不動産会社が選ばれる時代が近付いてきていると言えるのかもしれません。
総務省「情報通信白書」(平成26年度版)によれば、不動産業界のICT化の進展スコアは5.6ポイントにとどまり、他の業界と比べて低い水準にあります。
ここでは、不動産業界のDXの導入が進まない理由について考えてみたいと思います。
不動産業界独特のアナログ業務がDXの推進を阻んでいることは上述した通りです。
紙で保存している物件・顧客情報などは、様式・形式が統一されておらず、膨大なアナログデータをデジタル化するだけでも相当の時間とコストがかかります。
ただでさえ忙しい不動産会社にとって、限られたリソースはコア業務(接客・情報収集など)に充てざるを得ないため、未来への先行投資とも言えるDXが進んでいないのが現状です。
結果として、非効率な労働環境による長時間労働が維持され、人手不足の常態化によってDXにリソースを割けないという悪循環に陥っています。
不動産業界でDXが進まない理由として、異業種に比べて前例が少ないことも挙げられます。
参考となる企業もしくはその事例が少ないため、DXを推進するのにあたって何をどのように進めればよいのか分からないというケースが多く、新規導入に二の足を踏んでしまうケースが多くなっています。
DXの成功事例をIT企業などの成功事例にまで手を広げれば事例を見つけることができますが、不動産業界の特殊性もあり、異業種の成功事例はあまり参考にならないことが多いようです。
そのため、DXを推進する多くの不動産会社は自身で試行錯誤しながら進めざるをえないというのが現状です。そのことによる時間とコスト負担の大きさがDX推進を阻む要因の一つとなっています。
利用者のニーズ・リテラシーに合ったツールを適切に選定することは、時間のかかる難しい作業です。
加えて、ツールは導入して終わりではなく、運用して効果を上げていく過程において常にPDCAを回して最適化を図る必要があるため、その意味でも使い勝手のよいツールを選ぶ必要があります。
ツールに関する膨大な情報を読み解くために一定のITリテラシーが求められることも、ツールの選定を難しくさせている要因の一つと言えるでしょう。
DXを導入し成果が出るまでには時間とコストがかかりますが、短期的な売上を重視せざるを得ない企業にとっては、即効性がない設備投資に時間とコストをかけられないという事情があります。
導入にかかる期間やコストは、導入するツールや利用者の数によって変わりますが、社内体制を整えるなどの準備期間も含めて数週間から長いものでは数カ月かかるケースもあります。
本来であれば、時間がかかるからこそ早期にDXを推進しておく必要がありますが、業界の大半が中小・零細企業である不動産業界では、投資がなかなか進まない現状にあります。
新しいシステムを導入した際、「覚えることが多すぎる」「使い勝手が分からない」といった不満が利用者から上がりがちです。
こういった利用者の声にしっかりと対応することができないと、経営層から「新システムの慣熟に時間がかかりすぎる」、「システム運用のランニングコストと費用対効果が見合わないなど」などと判断され、導入中止を突きつけられかねません。
新システム導入後もPDCAを回し続け、利用者や経営層の声に耳を傾けながら適宜改善を繰り返し、効果の可視化が進むような取り組みを不断に継続していく必要があります。
導入前から導入後の運用体制・スケジュールを固めておき、使いやすく・効果があるツールであるという認知を定着させることが重要です。
不動産会社が自社業務でDXを推進する主なメリットは次の4点です。
①業務効率化によるコスト削減
②労働環境の改善による人手不足の解消
③顧客満足度の向上による集客力の向上
④新しいビジネスチャンスの創出
以下、順を追って解説します。
物件の入力作業、関連書類の作成、顧客とのコミュニケーションなどを自動的・機械的に処理できるようになりますので、業務の効率化によるコストの削減が可能です。
属人的な業務や大量のリソースを費やしていた業務がシステム化されることで、残業代を含めた人件費の削減が期待できます。
加えて、データ化によるペーパーレスが進めば紙・OA機器などの消耗品の経費削減、それらの保管スペースなどの最適化も期待できます。
他にも、web会議の活用による交通費の削減など、さまざまな業務シーンでコストの削減が見込めるでしょう。
DXの推進によって業務の属人化を防ぐことで、業務量の平準化が進み、常態化している長時間労働を改善することが可能です。
ベテラン社員の経験と勘に頼っていた業務であっても、DXによって業務内容を定量的に見える化することが可能になるため、経験の少ない若手社員を短期間で戦力化することができるでしょう。
ベテラン・実力のある社員に業務量が集中し、長時間労働が常態化するという悪循環を生み出していましたが、その改善によって離職率の低下だけでなく、採用面でも良い効果を生み出し、人手不足の解消に良い効果が期待できます。
接客・内見などの顧客コミュニケーションにおけるDXを進めることで、顧客満足度の向上が期待できます。
コロナ禍の影響で、ZOOMでの接客、VR内見、電子契約など、問い合わせから契約に至るまですべてオンラインで完結できるサービスのニーズが一気に高まりました。
できるだけお客様の都合に合うようなサービスを提供し、問い合わせから契約に至るまでの時間・コストの負担を軽減することで、利用者の満足度を高めることが競合他社との差異化に重要です。
顧客満足度が向上することで、新規顧客獲得はもとより、既存顧客からの紹介の増加も期待できるでしょう。
DXを推進することで、既存ビジネスの改善だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出も期待できます。
例えば、VRなどを活用したオンライン内見を活用すれば、商圏外の見込み客にアプローチすることができ、電子契約なども併用することでビジネスチャンスを広げることもできるでしょう。
他にもAIやビッグデータを活用することで、価格・物件・競合・消費者それぞれの動向を定量的かつ客観的に把握することができ、よりミクロな商圏におけるビジネスチャンスの発掘などを合理的に進めることが可能になります。
DXの推進によって、これまで取りこぼしていた機会損失を減らすことができ、新たなビジネスチャンスの創出につなげることができそうです。
不動産会社でDXを成功させるためには次の2点が重要です。
①DX推進のプロセス/ゴールイメージの共有
②PDCAを素早く回し業務効率化に繋げる。
以下、順を追って解説します。
DXを成功させるためには、自部署はもちろんのこと、関係各部署から経営層に至るまで、社内一丸となって取り組むことが重要なことは言うまでもありません。
そのためには、DXの進め方・導入が完了した際に得られるメリットを関係者それぞれの立場の目線で説明し、納得した上で協力してもらう体制づくりが求められます。
DXの推進には時間とコストがかかることは前述した通りですので、運用者・経営者・利用者それぞれが途中で心が折れてしまわないような取り組みが鍵となります。
PDCAを素早く回せば、問題点の早期発見・改善に繋がります。
利用者の有効活用を促すためにも、クレームや不満は早いタイミングで解消することが重要です。
また、最新のシステムを導入したつもりが気が付けば業界のスタンダードとなり、競争力を失ってしまったということが無いよう社内外に常にアンテナをはりめぐらしておくことも求められます。
改善を進めながら課題を解決していき、自社内での成功事例が積み重なっていくことで効率的な運用の形が徐々にできあがっていくことでしょう。
不動産業界での成功事例が少ないDXですが、コロナ禍の影響で「ウェブ会議」や「チャットツール」などの、比較的導入が容易なDXは着実に進んでいます。
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会のDigital Workstyle College編集部では、不動産会社における各種業務について、DX実施前と後の取り組み方について、以下の表のようにまとめています。
ビフォーDX | アフターDX | |
追客 | メールや電話で追客 | 自動追客 |
店舗 | 対面接客 | 非対面接客 |
物件案内 | 直接案内による内見 | 遠隔でオンライン、VR内見 |
物件確認 | 電話で物件確認 | リアルタイムデータベース |
内覧予約 | FAXで内見予約 | ウェブで内見予約 |
申込 | 申込書を作成 | 電子申込、電子契約 |
重要事項説明 | 対面による説明 | IT重説 |
物件情報更新 | エクセルで物件情報を更新 | アプリ・クラウド上で物件情報を更新 |
物件管理 | 管理台帳でレポート | アプリ・クラウド上で自動レポート |
引用:Digital Workstyle College「不動産業界のデジタルトランスフォーメーション推進に取り組む2社から学ぶ規制産業でのDXの進め方」
https://digitalworkstylecollege.jp/report/real-estate-dx/
不動産各社の各業務ごとにさまざまなDXのアプローチがあり、それぞれのアプローチにさまざまな不動産テック企業がさまざまなサービスを提案しています。
多数のサービスが乱立する中で、膨大な情報を読み解き、自社に最適なサービスを一つに絞り込むことはとても難しく、時間がかかることでしょう。
ここまでの解説を踏まえて、前掲の「DX実施前と後の取り組み方」の各項目ごとにおススメのサービスをご紹介します。
「PropoCloud(プロポクラウド)は顧客のメールアドレスと希望物件条件を登録するだけで、エンド顧客一人ひとりの条件に合った物件を自動提案してくれるサービスです。
また、提案メールもスマホに最適化されたシンプルな見た目でエンド顧客からのリアクションをもらいやすいデザインで開封率50%以上というのが強みです。
プロポクラウドは大手企業を中心に導入されており、かつ課題解決と共に顧客満足度の向上と顧客のアクション数の増加にも貢献しています。
「Pardot(パードット)」は世界的に有名なSFA・CRMを提供する「セールスフォース・ドットコム」が提供するMAツールです。リードの行動や関心度合について、営業に共有する機能が備わっている点が特徴的です。
「Marketo(マルケト)」は世界の5,000社以上で導入されているMAツールです。顧客情報や購買行動、セグメントによる適切なアプローチを可能にするアプリが搭載されているのが特徴的です。
「Zoom」はオンライン上で複数人によるビデオ・音声会議ができる、ビジネスに最適化されたサービスです。 PCだけでなくスマホやタブレットでも利用可能です。
「Spacely」は360度写真や動画を使った高品質なVRコンテンツを直感的に制作、編集、管理ができるクラウドソフトです。VR内見等で活用されています。
「2秒でブッカク!」は不動産仲介会社向けの売買物件確認、内覧調整、購入申し込み等における不動産業者間のやり取りをオンライン上で完結できるSaaS型のシステムです。
「レリーズ」は不動産売買売買契約書・重要事項説明書・媒介契約書の締結など、不動産売買にかかる一連の契約手続きを実施可能。2022年6月サービス開始(予定)にもかかわらず、すでに事前登録社数が50社を突破しています。
「不動3之助」は不動産会社向けのポータルサイト一括入稿システム。物件入力支援や物件出稿、物件管理に特化した賃貸業務支援サービスです。
「いえらぶcloud」は物件管理・ポータルサイト連動・管理業務支援はもちろん、集客・追客・反響獲得支援に至るまで、不動産会社様の業務をトータルでサポートする不動産業務支援サービスです。
今回は、不動産DXにおけるおすすめのサービスについて「不動産業界におけるDXとは?」といった原点から紐解いて解説しました。
不動産業界におけるDXは、コロナ禍を経て急速に動き出した印象があり、IT化による業務効率化、顧客サービスの拡充が進んでいます。
今後、業務環境の改善、顧客満足度の向上、新たなビジネスチャンスの創出などによって、不動産業界および不動産業界を取り巻く環境は新しい局面を迎えることになるでしょう。
この記事を参考にしていただき、貴社の業務課題とは何か?DXによってどのように解決するか?どういったツールが最適か?といった観点からDXの導入・推進を検討してみてはいかがでしょうか?